商売を営んでいた父が半年前に亡くなり,相続人は母と兄と妹である私の3人です。相続財産は,自宅兼店舗の土地・建物(時価約3千万円)と預金1千万円,また銀行から事業資金としての借入金が2千万円あります。商売は兄が引き継いで営業を続けているため,自宅の土地・建物を兄が相続する代わりに銀行の借入金も全額支払うこととし,預金は私と母で半分ずつ分ける遺産分割協議をしました。しかし,兄が銀行に借入金の返済をしなかったので,銀行から私に500万円の支払請求をされています。私は銀行に支払いしなければならないのでしょうか?

被相続人が死亡して相続が開始すると,被相続人債務については法定相続分に従って分割した金額をそれぞれの相続人が負担します。これは遺産分割協議の成立の有無とは関係ありません。 

ですから,相続人の間で被相続人の債務を負担することについて,たとえば相続人の中の一人だけが全ての債務を引き受けるというような,法定相続分とは違う割合での遺産分割協議をしても,債権者にそのような主張をすることはできません。

また,仮に遺言で特定の相続人に債務を相続させると書かれていても,相続人はそれに従う必要がありますが,やはり遺言の内容を債権者には主張できません。

なぜなら,相続人の間で話し合って決めたり,遺言で定めたりした法定相続分と異なる債務負担の割合を債権者に主張できるとすると,資力のない相続人に借金を全て負担させて,他の相続人は被相続人の財産だけを受け継ぐ事として,結果的に債権者が債権の回収不能という不利益を被ることになるからです。

 したがって,ご質問のケースでは,相続人が母,兄,あなたの3人ですから,あなたの法定相続分は相続財産の4分の1となるので,お父さんの銀行への債務2,000万円を分割した500万円については銀行に支払わなければなりません。

また,相続人の間で遺産分割協議をする時に,相続人の一人が債務を全額負担し,他の相続人は債務負担を免れることについて債権者である銀行の承諾を得ておけば,債務負担をしない相続人は銀行に対する支払い義務を免れることができます。