父が亡くなり,その遺産を母と私たち兄弟二人の三人で相続することになりましたが,母は3年程前から認知症と診断されています。遺産分割をどのように進めたら良いでしょうか?

遺言がない場合,相続人全員が,遺産分割協議をして,各相続人がどのように遺産を取得するかを決めます。このように遺産分割は,被相続人の財産が移転するという効果が生じる重要な法律行為にあたるので,通常の取引をするのと同じように,自分の行為が法的にどういう結果を生じさせるかを理解できる能力(これを意思能力といいます)を備えている必要があります。

相続人の中に認知症の方がいて,認知症の症状が重いために,意思能力を欠いた状態で遺産分割が進められたような場合には,たとえ遺産分割協議書にその方の署名・押印がされていても,後になって遺産分割協議が無効とされる可能性があります。

ですので,認知症によって意思能力の有無が疑われる相続人がいる場合,後に遺産分割が無効になることを防ぐための手だてを取る必要があります。

認知症になったと言っても,症状や程度は人によって様々ですので,必ずしも全ての認知症の方が意思能力に問題があるわけではありません。個々人の症状に応じて個別具体的に判断する必要があります。そして認知症の方の意思能力の程度に応じて,成年後見保佐補助という制度が定められています。

かなり重い認知症で,意思能力を欠くような場合には,遺産分割協議をする前に家庭裁判所に後見開始の審判を申し立てて,家庭裁判所で後見開始の審判と成年後見人を選任してもらうと良いでしょう。その上で,成年後見人が法定代理人として参加して遺産分割協議を行います。

意思能力はあってもそれが著しく不十分な場合には,保佐開始の審判を申し立てて,家庭裁判所で保佐開始の審判と保佐人を選任してもらいます。

また,相続人の意識が一部時々はっきりする等,意思能力が不十分な場合には,家庭裁判所に補助開始の審判を申し立て,補助人を選任してもらいます。

保佐人や補助人は,後見人とは違って当然に代理権はなく,遺産分割協議をすることの代理権を付与する旨の審判を家庭裁判所に請求しなければ,代理人として協議することはできません。また,保佐人は,本人が保佐人の同意を得ず遺産分割協議を行ったとき,それを取り消しできますが,補助人は同意権付与の審判を受けないと,同意や取消はできません。