借家の契約者が死亡した場合に,借家権は相続できるのでしょうか?

質問:

私たち夫婦は,夫名義で借りた借家に長年住んでいましたが,先日夫が急に亡くなってしまいました。
相続人は妻である私だけなのですが,家主さんから立ち退き請求をされたりしないか心配です。

 回答:

土地や建物の賃借権(借地権,借家権)は,財産的価値がある権利であり,かつ被相続人の一身専属権ではないことから,相続財産に含まれます。ですから,ご相談のように,借家の賃貸借契約の借主である夫が亡くなった場合,借家権は相続人である妻のあなたが相続します。よって,たとえ家主が借主の死亡を理由として立ち退くよう請求をしてきたとしても,あなたは立ち退く必要はありません。

また,借主の死亡によって,当然に相続人が借家権を承継するので,相続するのに貸主である家主の承諾などもいりません。

この点に関し,「承諾料」や「名義書換料」として家主から金銭の請求がされることもあるようですが,法律上支払う必要はありません。相続が決まった時に,家主に対して借主が変わったということを書面で通知すれば良いと思われます。

 民間の借家では,以上述べたように借家権は相続の対象となりますが,県営住宅や市営住宅などの公営住宅の場合には,その使用権は公法上の権利なので結論が異なります。

 公営住宅法により公営住宅の入居や使用について定められていますが,この法律は所得の低い人に対し安い家賃で住居を賃貸して国民生活の安定と社会福祉の増進などを図るのが法の目的なので,入居の際に厳しい入居資格や選考基準があります。それなのに,相続によって使用権が承継されると,本来であれば入居資格のない人が入居できるという不都合が生じてしまうことになりかねません。

この点について,最高裁判例でも公営住宅の使用権について相続による承継を否定しています(最判平成2年10月18日)。

 とはいうものの,通常は,同居の親族であれば,各地方自治体の条例に従って手続きをすることにより,使用権の承継が認められているようです。